教会の屋根に十字架 

 

 多くの教会には、ごく一部の例外を除き、会堂の屋根や壁に十字架があります。それはなぜでしょうか。
 もともと、十字架の形をシンボルとして用いた起源は古く旧石器時代で、太陽や、地水火風という4元素などを表わしたのだそうです。それがキリスト教のシンボルになったのは、十字架が死刑の道具になり、そこに主イエスが磔にされて殺されたからです。

  木材を十文字に組み合わせ、罪人の処刑に際してその手足を結びつけ、または大きな釘で打ち付けます。磔の仕方、十字架の形も時代により、国や地域により様々でした。縦棒だけのものや(「柱」エステル記5章34節参照)、T字型、X字型のものも用いられました。

 現在、教会で使用している十字架はラテン型と呼ばれ、ローマ帝国時代に用いられたものです。主イエスは、パレスティナがローマによって占領されていたときに、ローマの総督ピラトによって十字架刑に処せられましたから、このラテン形の十字架に磔されたと考えられます。

 この刑は、ローマ市民権を持たない者、特に奴隷など身分の低い者に対して行われました。致命傷を与えず、磔にしたまま放置して失血致死させることも多かったようですが、様々な辱めが行われたり、また火あぶりにして焼き殺すこともありました。死期を早めるために足を折るようなこともあったようです(ヨハネ19章31~33節)。
 刑のむごさから、「十字架」と口にすることもおぞましかったようです。ローマ字の「T」が十字架を連想させるので、呪われた文字と言われていたと聞いたこともあります。

 しかし、主イエスの死が、私たち人間の罪の贖いのためであるということが分かってから、キリスト教徒は、尊敬・名誉・贖罪・犠牲・苦難の表象として、2世紀頃から用いるようになりました。4世紀になってローマがキリスト教を公認宗教に定めてから、特に十字架刑が廃止されたこともあって、勝利のシンボルとして公然と掲げられるようになりました。

 その後、教会堂が十字型に造られたり、欧州諸国の国旗や王冠、騎士団の紋章などに広く用いられるようになりました。
 十字架のネックレスをキリスト教のお守りだと考える人もあるようですが、それは聖書の教えるところではありません。それを身につける習慣は、自らをキリスト教徒であると表明するところから始まったものだと思います。
 今日、カトリック教会は主イエスの磔像がついた十字架を用いていますが、プロテスタント教会では像のつかない十字架を掲げています。教会堂から一切の装飾を取り除いたジョン・カルビンの教えを守っている改革派の教会は、十字架を掲げません。因みに大牟田教会はプロテスタントに属する教会なので、像のつかない十字架を屋根の上や礼拝堂の正面などに掲げています。
 英語では十字架をCROSS(クロス)と言いますが、キリストが十字架で苦しまれたことから、苦難や不幸、悩みという意味にも用いられます。No cross,no crown.(十字架なしに王冠なし=苦難なくして栄光なし)、Bear one's cross.(~の十字架を負え=苦難に耐えよ)という用い方をするそうです。聖書に「万事が益となるように共に働く」という言葉がありますので(ローマ書8章28節)、苦難も益となる、十字架も栄光となると信じることは、とても大切なことだと思います。教会の屋根に掲げてある十字架を仰いで、主イエスの恵みと勝利の力を信じましょう。

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